ご挨拶

第41回日本脳腫瘍学会学術集会
会長 藤堂 具紀
(東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科 教授)

藤堂具紀会長

この度、第41 回日本脳腫瘍学会学術集会を、2023 年12 月3 日(日)~ 5 日(火)に、新潟 月岡温泉 白玉の湯 華鳳にて開催させて頂きます。東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科のスタッフに加え、日頃より懇意にさせて頂いている脳腫瘍専門の先生方にプログラム委員としてご協力をお願いして鋭意準備を進めて参りました。有意義かつユニークな学術集会に仕上がったと自負致しております。

本学術集会は、1980 年にその前身である日光脳腫瘍カンファレンスから始まりました。脳腫瘍関連の学会としては最も長い歴史を持ち、脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍の研究と治療に携わる臨床医、臨床科学者、基礎科学者,企業研究者等が一同に会して、参加者同士が時を忘れて議論するのが本会の伝統です。コロナ禍により現地開催が困難な状況が続いておりましたが、今回は完全な現地参加型に戻し、伝統に則って、参加者同士の活発な議論と交流の場にしたいと考えております。

悪性脳腫瘍の治療成績を上げることは容易ではありません。近年、がん細胞ゲノムの次世代シークエンサー解析やがん遺伝子パネル検査で、がん特有の遺伝子変異を見出して標的とするprecision medicine が普及してきました。また、交流電場療法や光線力学的療法など医療機器と組み合わせた治療法も実用化され、既存の治療を乗り越える努力が続けられています。欧米では、手術や高度医療のセンター化など、日本とは医療システムが異なるため、新薬開発のための臨床試験(日本の治験)も既存治療の最適化のための臨床試験(日本では臨床研究)も、日本に比べ圧倒的な規模と速さで結果を出しています。欧米の臨床試験の結果は大いに参考にすべきですが、決して妄信すべきではなく、医療事情や背景なども含めて分析し解釈する必要があるでしょう。

本学術集会のテーマは「世界へ発信 日本の成果」としました。日本には他に類のない皆保険制度があり、欧米では一般の患者が享受できない治療でも、国民誰しもが区別なく受けることができます。治験や先進医療で健康保険が使えるのも日本独特であり、保険制度が異なれば医療倫理も異なってきます。日本では世界に先駆けて悪性神経膠腫を対象にウイルス療法薬が製造販売承認され、今後有用性が明らかになるにつれ世界に普及することになるでしょう。承認された最大6 回の手術による反復脳腫瘍内投与は、日本の保険制度下だからこそ、また脳神経外科医が脳腫瘍の新しい治療開発を主に担っているからこそ実現できた治療法です。健康保険に制限され、neuro-oncologist が臨床開発の中心を担う欧米の脳腫瘍治療開発の現場にパラダイムシフトを与えたとされます。現在進行中の日本発の脳腫瘍の医療開発や、日本の保険制度下だからこそ可能な脳腫瘍医療が少なからず存在します。これからは、欧米で開発されてきた「標準治療」をそのまま日本でなぞるのではなく、先陣をきって日本から、悪性脳腫瘍の新しい医療を世界に発信していくべきだと考えます。

特別講演は、東京大学卓越教授の宮園浩平先生にお願い致しまして、脳腫瘍幹細胞研究の最新知見をお話し頂きます。また、招待演者としまして、UCSF Brain Tumor CenterのMitchel S. Berger 教授とハーバード大学Brigham and Women’s Hospital のE. Antonio Chiocca 教授、およびMemorial Sloan Kettering Cancer Center のChristian Grommes 先生をお迎えし、膠芽腫およびPCNSL の最先端治療についてお話頂きます。シンポジウムには、京都大学iPS 細胞研究所の高橋淳教授とErasmus Medical Center のMartin van den Bent 教授にご登壇頂きます。更に、テレビなどでご活躍中の有働由美子アナウンサーにテレビの舞台裏のお話を含むご講演をお願いしております。

新潟県は、ウイルス療法薬とウイルス投与/ 生検用穿刺針がいずれも製造されている地です。会場となります月岡温泉 白玉の湯 華鳳は、エメラルドグリーン色の湯量豊富な自家源泉と、新潟の豊富な食材を用いた料理が自慢の、新潟県随一の旅館で、会期中は学会貸し切りとなります。今回はまた、地元の酒蔵へのエクスカーションや日本酒の講義と試飲も企画しています。

本学術集会が皆様にとって思い出に残る会となることを願っております。

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